重さ 0.235 g のプロペラの慣性モーメントを、どうやって測るか。 捻り振子にかけるには軽すぎ、CAD データはありません。 答えは真上から写真を撮って、画素を数える—— デジタルカメラをそのまま測定器にする方法です。

B.1 原理 — 慣性モーメントは「r² の平均」

慣性モーメントの定義は \(I = \int r^2\,dm\)。プロペラのように 薄くて厚みがほぼ一様な部品なら、質量は面積に比例して分布する (\(dm = (M/A)\,dA\))ので:

$$I = \frac{M}{A}\int r^2\,dA = M\,\langle r^2\rangle$$

つまり総質量 ×「面積で平均した \(r^2\)」。 そして写真の1画素は面積の1標本ですから、部品に属する画素を \(N\) 個集めれば:

$$I \approx \frac{M}{N}\sum_{i=1}^{N} r_i^2$$

積分が「画素の \(r^2\) を足して割るだけ」になります。 これを画素直接積分と呼ぶことにします。 形の近似(長方形・台形など)を一切挟まないのがポイントです。

回転中心 r₁ r₂(遠い画素ほど r² で効く) I ≈ (M/N)·Σ rᵢ² — 部品に属する全画素で r² を平均して質量を掛ける
画素直接積分の考え方。1画素=面積の1標本。中心から遠い画素は \(r^2\) で 重く数えられるので、翼端の形が正確に効いてくる——形を長方形などで 近似すると、ここが狂う。

B.2 手順 — 撮る、塗り分ける、数える

  1. 撮影: プロペラを定規と一緒に、できるだけ真上から撮ります。 定規の目盛りから「1画素 = 何mm」のスケールを決めます(視差を抑えるため 離れて望遠気味に撮るのがコツ)。
  2. セグメンテーション(画像を領域に塗り分ける処理): 色の違いを使って、ハブ(中心の円盤)とブレードを画素単位で分類します。
  3. 数える: 重心(=回転中心)を求め、各部品の画素について \(r_i^2\) を平均します。
元の写真(定規つき上面)
図B-1: 元の写真。プロペラを定規と一緒に真上から撮っただけ—— これが測定の「生データ」のすべて。定規の目盛りで 1画素=何mm かを較正する。
セグメンテーション結果
図B-2: セグメンテーション結果。青=ブレード、黄=ハブ。 この塗り分けの画素を数えるだけで \(\langle r^2\rangle\) が出る。

B.3 2つの仕上げ — 投影補正と、部品ごとの質量

投影補正: ブレードは取付角(ピッチ角)だけ傾いて付いているので、 真上からの写真では翼弦方向が \(\cos\)(取付角)だけ縮んで写ります。 刻印「1209」(直径 31 mm・ピッチ 0.9 インチ)から各半径の取付角を計算し、 画素の面積重みを補正します。

質量の割り当て: ハブとブレードは厚みが違うので、 「全体で一様」とは仮定せず、ハブ 0.140 g・ブレード 0.095 g(4枚合計)を 個別に秤量して、それぞれの \(\langle r^2\rangle\) に割り当てます。 ハブは中心付近にいるので \(r^2\) が小さく、慣性への寄与はわずか—— 効くのはブレード、特に翼端側です。

コラム — スライス法の +43% バグ: 最初の推定では、ブレードを 半径方向の短冊(スライス)に切って \(\sum (w r^2 + w^3/12)\,\) 型の式で積んでいました。 ところが第2項 \(w^3/12\) は「まっすぐな棒を横に見たとき」の翼弦方向の 広がりの項で、回転軸まわりの環状スライスには不要です。 これを入れていたせいで +43% の過大評価になっていました。 画素直接積分は定義どおりの \(\int r^2 dA\) なので、この種の 「式の当てはめ間違い」が起きません。手法を変えて照合する価値はここにあります。

B.4 結果と照合

データ: assets/IMG_3579.JPG(定規つき上面写真。図B-1はその縮小版)。質量はデジタル秤で実測 (ハブ 0.140 g、ブレード 0.02375 g × 4)。 解析の再現: notes/calc/prop_inertia_photo.py(セグメンテーションと積分)、 notes/calc/rotor_inertia_specs.py(回転子)。