機体まるごとの慣性モーメント \(I_{xx}, I_{yy}, I_{zz}\) は、姿勢のダイナミクス すべての分母に入る数字です。これを紐2本で測るのが2点吊り法 (バイファイラ振子)——古典的ですが、いまでも航空機やロケットの 実測に使われる現役の方法です。
D.1 原理 — 重力をバネにする
機体を水平面内で小さな角度 \(\varphi\) だけ捻ると、紐の取り付け点が 水平に \(b\varphi\) ずれ、鉛直から \(b\varphi/L\) だけ傾いた紐の張力 (各 \(mg/2\))に水平成分が生まれます。これが元に戻す向きのトルクになります:
$$\tau = -2\cdot\frac{mg}{2}\cdot\frac{b\varphi}{L}\cdot b = -\frac{mgb^2}{L}\,\varphi
\qquad\Rightarrow\qquad
I\ddot{\varphi} = -\frac{mgb^2}{L}\,\varphi$$
重力が捻りバネの役をする単振動です。周期 \(T = 2\pi\sqrt{IL/(mgb^2)}\) を測れば:
$$\boxed{\,I = \frac{m\,g\,b^2\,T^2}{4\pi^2 L}\,}$$
D.2 測り方のコツ
- 捻り角は小さく(10°程度まで): 導出は小角度近似です。
- 周期は10周期まとめて測って割る: ストップウォッチの 反応時間の誤差が 1/10 になります。
- 測りたい軸を鉛直に: ヨー軸(\(I_{zz}\))は水平姿勢のまま、 ロール・ピッチ軸はその軸が鉛直になる向きに吊り替えます。
- \(I \propto b^2 T^2 / L\) なので、\(b\) と \(T\) の測定誤差は2倍で効きます。 吊り間隔と周期こそ丁寧に。
- 横揺れ(振り子モード)が混ざったらやり直し。純粋な捻り振動だけを使います。
D.3 電卓 — 測ったらここに入れる
初期値の m はStampFly の実測質量。L・b・T は自分の吊り方に合わせて 入力してください(g = 9.81 m/s²)。
D.4 StampFly の結果と、平面機体ならではの検算
| 軸 | \(I\) [kg·m²] |
|---|---|
| ロール \(I_{xx}\) | \(9.16\times10^{-6}\) |
| ピッチ \(I_{yy}\) | \(13.3\times10^{-6}\) |
| ヨー \(I_{zz}\) | \(20.4\times10^{-6}\) |
検算 — 垂直軸の定理: 薄い平板なら
\(I_{zz} = I_{xx} + I_{yy}\) が厳密に成り立ちます(垂直軸の定理)。
StampFly は完全な平板ではありませんが、形はかなり平たい機体です。
実測で確かめると \(I_{xx} + I_{yy} = 22.5\times10^{-6}\) に対して
\(I_{zz} = 20.4\times10^{-6}\)——比 0.91。バッテリーやモータの
「厚み」の分だけ等号から下がる、という向きも含めて筋が通っています。
3つの独立な吊り測定が互いに矛盾していないことの、手軽で強力なチェックです。
結果は測定者(開発者)による2点吊り実測値。周期などの生データは 本編制作時点では記録が残っていないため、追試の際はぜひ D.3 の電卓と あわせて記録を残してほしい。